Archive Walker

嘘とゴミ箱

二〇二三年八月十二日

嘘とゴミ箱

ピカソの蒐集癖

二〇二三年八月十二日。僕は部屋の片付けをしながら、ゴミ箱いっぱいのごみを見て途方に暮れていた。小林秀雄のピカソの分析を読んでいたから、ピカソの蒐集癖とそれを象徴したピカソの言葉、「手にはいったものを、棄てねばならぬ理由が何処にあるか」というのが印象に残っていたのだろうか。僕はこう書いていた。

自我論集

山地大樹

嘘は燃えない

嘘をゴミ箱に捨て続けたら、ゴミ箱がいっぱいになってしまった。使い捨てのティッシュと破り捨てられた履歴書に混ざった嘘は、居心地わるそうに震え続けていた。嘘は燃えないから、燃えないゴミの日に分別して出さなくてはならず、燃えるゴミの日の今日にのゴミとして出すことは社会的に許されていない。燃えないゴミの収集日は水曜日だから、それまで嘘を捨てるのを待たなくてはならない。しかしながら、嘘がゴミ箱に入ってる状態は気持ち悪く、水曜日はあまりに遠すぎると感じられたから、燃えるゴミの日にこっそり捨ててしまおうと、嘘の入ったゴミ袋を抱えて家の外に飛び出すと、ヒステリー特有の調子を持った声が聴こえてきた。

何をしているのかしら、あなた。嘘は燃えないわ。嘘を燃やしてはいけないの。燃えないごみの日に出しなさい。非常識は許されないわ。

正義感の声色

声の発信源である女性は、大きめの麦わら帽子を頭に載せて、身体のサイズに合わないワンピースを身に付けていたから、正義感が人一倍に強い人だということが、人生の統計から明らかである。とりわけ、耳ざわりな声色は正義感の象徴である。この声色を持つ女性が他人の話に耳を傾けているのを見たことがない。大抵の場合、自分の話に耳を傾けて、自分に話かけ続けるのである。面倒に巻き込まれた僕は、咄嗟に嘘を吐く。「えっ、燃えない嘘を燃やすと有害だと思われてますか? ご婦人、冗談がすぎますよ。いまどきなんでも燃えますよ。二ヶ月前から、嘘は燃えることになったことをご存じないのですか。回覧板をお読みにならなかったのですか。嘘は燃えるんです」。

燃える嘘

隣の家に住むこの女性は、みずからの無知に顔を赤らめてから、自分の家の玄関に戻って行った。僕はというと、嘘が燃えるという嘘がばれてしまう前に、手許のゴミ袋の結び目を緩めて、嘘が燃えるという嘘をそっとゴミ袋に滑りませてから、ゴミ袋をゴミ置き場へと放り投げ、鼠のように自宅へと駆けこんだ。自宅に帰った僕は、彼女の正義感という嘘を一緒に捨ててあげればよかったと後悔する。彼女の正義感はよく燃えるに違いない。あまりによく燃えるから、正義感の炎が世界を包みこんで、世界は灰になってしまうだろう。ところで、嘘の灰は燃えるのだろうか?

季山時代
2023.08.12