夜王子と昼天使
夜王子と昼天使
夜と昼の現象学
二〇二四年一月十日。僕は明後日の哲学を考えて以来、夜と昼という曖昧な存在に気を奪われていた。手元のメモ書きには「昼と夜は、睡眠という確固たる断絶から生じた曖昧な領域ではないか」と書かれていた。多分、昼と夜というのを睡眠前と睡眠後という風に考えるのではなく、騒がしい場所と静かな場所くらいに考えているのだろう。僕はこう書いていた。
山地大樹
夜王子と昼天使
僕は夜王子、昼になると蒸発してしまうんだ。
君は、昼が来ることに怯えているの? 太陽が怖いの?
怯えるだって? 僕は昼を見たことがないんだ。だから、どんな昼にどんな世界が広がっているのかを知らない。夜には、月と星が輝いているけど、昼には、人間と草花が、色という不思議な言語で会話していると聴いているよ。太陽が光を浴びせるなんて、さぞ鮮やかな世界が広がっているんだろうな。僕は、太陽の端っこが地面から顔をのぞかせた途端、あっという間に蒸発してしまうんだ。太陽が怖いわけではないよ。むしろ、太陽がある世界が羨ましいんだ。昼の世界に行ってみたいなあ。
昼の世界では、人間と草花は喧嘩ばかりしているの。君が思っているより平和な世界ではないのかもしれないわ。
そうなんだ、悲しいね。夜の世界では、沈黙のなか、皆が昼の世界を期待して震えているというのに。そんな風に聞くと、昼か来ることが怖くなってきた。太陽が訪れるのが怖い。ねえ、昼の世界の喧嘩のことは、ここだけの秘密にしてくれないか。夜の世界の住人たちは、みんな昼の世界が大好きなんだ。こんな思いをするのは僕だけでいい。
うん、わかったわ。ねえ、夜王子さん。私、夜の世界が大好きよ。昼の世界にはないものがたくさんあるもの。月と星が輝くなか、静寂と沈黙を感じられるのは夜の世界だけの特権ね。みんな、健気に眠りについているけれど。
ありがとう。僕も夜の世界が大好きなんだ。そして、少しのあいだだけど、君のことも大好きになったよ。ねえ、昼天使さん。僕はもうすぐ蒸発してしまうけど、君のこと想って生きることにするよ。昼の世界は信頼できないけど、君のことだけは信頼できるような気がしているんだ。
ありがとう。私も君のことが大好きよ。たとえ君が蒸発しても、君のことを忘れないから。
季山時代
2024.01.10

